蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
「……い…だよ……んせ……だ…め……い…な……ううっ……」
毎晩柚瑠木さんの唸り声を聞いているうちに、彼がいくつかの同じ言葉を繰り返している事に私は気付いたんです。
私が分かったのは「いやだ」「ダメ」そして「行かないで」のみっつだけです。でもこれだけでは何のことなのかまでは分からなくて……
「行きません、私はどこにも。柚瑠木さんの傍にずっといますから。」
ギュッと力を込めて柚瑠木さんの手を握りました。私にはこれくらいしか出来ませんが、少しでも夢のなかの柚瑠木さんが安心してくれればいいと思って。
柚瑠木さんの言葉に不安を感じないわけではありません。彼は夢の中で誰かを引き止めている、もしかしたらその人は柚瑠木さんにとって特別な相手なのではないかと。
柚瑠木さんの事をもっと知りたいのに、これ以上知るのが怖くもあって……
「私はどうすればいいんでしょうか……?」
柚瑠木さんの事に詳しい人、そう考えると彼の幼馴染の狭山 聖壱さんが浮かびました。聖壱さんならば柚瑠木さんが魘されている原因も、もしかしたら知っているかもしれません。
私は次の料理教室で香津美さんに少しだけ聖壱さんと話をする時間を取ってもらえないか、お願いしてみようと思いました。