甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~


 そっと両腕を広げて彼の背中に回してみせる。簡単に「いいわよ」なんて言える訳なくて……これが今の私に出来る精一杯の返事なのよ。
 それはちゃんと聖壱(せいいち)さんにも伝わったみたいで、彼は私の身体を少し強めに抱きしめてくれた。

「大事にする、香津美(かつみ)は初めてだし出来る限り優しく抱くから……」

「誰もそんな事……きゃっ!」

 こんな時に余計な事は言わなくていいのに、どうしてそういう事まで言っちゃうのよ?
 恥ずかしくて怒って反抗しようとしたのに、聖壱さんにそのままの体勢でベッドに押し倒されてしまって……

「じゃあ香津美は手加減しなくてもいいのか?泣いても知らないぞ?」

 ちょっと待ってよ、泣いても知らないぞって……?
 抱き合うことは私が泣くような行為なのかしら、いままでそんな風には聞いた事が無かったのだけれど。

「それじゃあ、聖壱さんは私を泣かせたいの……?」

「……ノーコメント。今の香津美にはそこまでは教えられない。今答えて香津美に嫌われたくはないから。」

 どうして?聖壱さんの言い方じゃ、いつか私を泣かせたいのだとしか聞こえない。
 さっきは出来るだけ優しくすると言ったくせに……聖壱さんって少し意地悪だわ。でも……

「そうね。初めてだから、全部聖壱さんの言う通りにするわ。」

 そうやって強気に微笑んで見せる。ちょっと意地悪されたくらいじゃ、オロオロするなんてみっともない所は見せないんだから。


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