甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~
目の前に差し出されたスマホをジッと見つめる月菜さん。今の彼女に柚瑠木さんに電話を出来るだけの気持ちの余裕があるか分からない、いざとなったら私が……
月菜さんは狭山《さやま》常務の差し出したスマホにゆっくりと手を伸ばして――――
「私は……私は、柚瑠木さんに電話をかけるつもりはありません!」
常務の手からスマホを床へ落としたの。まさかさっきまでずっと震えていた月菜さんがこんな行動に出るなんて思わなかった!
月菜さんから歯向かわれることを予想していなかったのでしょうね、常務は驚きを隠せない様子だった。
「私は柚瑠木さんの妻です。こんな事で彼に迷惑をかける訳にはいかないんです。」
「……自分の事より二階堂君が大事ですか?ちゃんと私の言う事を聞けば貴女は無傷で帰れるんですよ?」
私は柚瑠木さんと月菜さんの夫婦関係がどのような物か知らないけれど。月菜さんは柚瑠木さんのために一生懸命なのだという事は分かる。
月菜さんの気持ちは分かるけれど、このままじゃ彼女の方が危険だわ!
『 香津美!いったいどうした!?』
「待って聖壱さん、今、月菜さんが……」
もう一度常務が月菜さんにスマホを差し出す、今度は先程のような余裕の笑みなど見せてはいない。
……けれど彼女はきっと考えを簡単に変えるような子じゃないはず。
「これが最後です、よく考えてごらんなさい?」
「……いいえ、私の考えは変わりません。私は夫の柚瑠木さんの事を一番に優先します。」
小さく震える声、だけど彼女はハッキリと自分の考えを言える強い女性なんだわ。それにこんなにも柚瑠木さんの事を大切に思っている。
だけどそんな彼女に狭山常務は激怒し手を振り上げた!
「この生意気な小娘……!」
いけない、私が月菜さんを守ってあげなくては……!私は月菜さんの前に飛び出して、狭山常務から彼女を庇う。