アヤとり
それはこんな
「はあ~! やっぱり山くん最高~!」
「え、ねえ! 私絶対推しからファンサ来たんだけど!」
「ほんとに!? 全然そっち見てなかった!」
「は~まずセトリがヤバかった! 何も覚えてない……」
「わかる! 会場出たら記憶飛んだ」
そう、私たちは今ライブ会場から出てきたばかりのオタク。
非日常を各々楽しんだ声が飛び交っている、まるで夢のあとのような空気。
「帰りたくない~。やっぱり現場にくると生きてるって感じがする!」
「そうなんだよね。帰って旦那いるとか正直今は考えたくない……」
「えー!新婚じゃん~結婚してもオタク許してくれるなんて羨ましいよ~」
「そういう灯(あかり)の彼氏だって、どこに遠征しても特に口出ししてこないじゃん」
「あれは違うの、ただ私に興味がないだけ」
美幸(みゆき)は同じグループを応援しているオタク友達。
高校卒業してから今まで約8年間、ライブには一緒に行く仲。
家庭がある美幸はなかなか遠出はできないものの、旦那さんはオタク活動を容認してくれているらしい。
「でもさ、アイドルオタクに偏見もってる男の人って多いし結構貴重だと思うよ?」
「そうかなあ」
「とりあえず円盤買わなきゃ!」
「シングルも新しいの出るしね~仕事がんばろ~」
私の時間を脅かすくらいなら、いっそ彼氏なんていらない。
それは、きっとこれからも変わらない。
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