アヤとり
冷たい風に思わず目を瞑る。
そして、目を開けたとき私の見た景色がまるで違って見えた。
まるで、初めて色を見たかのような。
目の前にいたのは……
ただの顔のいい男性だった。
男性の手にはなぜか大量の女性ブランドの紙袋。
疲れた顔で上り坂を歩いているのが目についた。
その姿が何故か気になって、目で彼を追っていた。
「あの……」
そして何故か声をかけていた。
彼はびっくりしたようにこっちを見て、言葉を発さない。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
不審に思われないかな。
他にかける言葉を用意していなくて、慌てて言葉を繋げる。
「あ、いや。すみません。大丈夫です」
背筋を伸ばして見せた彼は、3センチヒールのパンプスを履いた私より10㎝以上背が高いように見えた。
なんだか急に自分から声をかけた自分が恥ずかしくなってきた。
「そうですか、じゃあ……」
「あ、ちょっと待って」
上り坂に向き直った私を彼が急に呼びとめた。
「な、なんでしょう」
驚いて振り返った先、顔のいい男性と目が合う。
本当に顔が良い。
私はこの時彼にこの感想しかなかった。
ないはずだった。
でも、この時を境に私は知らない自分を知ることになる。
先のことなんかわからないはずだけど、なんとなく予感がしていた。
見たことないものを見るときのようなわくわく感がそう言っていた気がする。
「僕の名前、アヤっていうんです」
これが謎の片思い男子、アヤとの出会い。
【出会いだったりして】