絶対様
「美緒、水を飲んで」


あの時と同じように美緒の顔を少し上げさせて、口にコップを運んだ。


少しこぼれたけれど、美緒が水を飲む音が聞こえていた。


コップをテーブルに置いて、ジッと美緒の様子を見つめる。


なにも見えていない様子だった美緒の灰色の目が、徐々に色を取り戻していく。


そしてその目はあたしを映し出した。


「美緒、あたしだよ、わかる?」


「うん、わかるよ」


美緒は笑顔を浮かべた。


その笑顔を見て思わず美緒の体を抱きしめてしまう。


本物の美緒だ……!


「あの火事のとき、どうやって逃げ出したの?」


「逃げてなんかないよ」


「え?」


でも現に美緒はここにいる。


あの廃墟にいたら、燃えてしまっていたはずだ。


「あたしはもう人間じゃないから、火事で焼けても死んだりしない。この家に入るのだって、別に玄関からじゃなくて平気なの」


「そうなんだ」


それは夢の中の話みたいだった。


美緒は肉体がありながらも、幽霊のように動き回ることができるのだ。


それこそ、神がかった力だと感じる。
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