ドライブスルー彼氏
「松原さんは普通に彼氏を探しに来たんだろ? どうして俺を選んだんだ?」


再び歩き始める靖くん。


あたしはその後をついて歩き出した。


「昔、好きだったの」


当時は絶対に言えなかったことが、スラリと口から出ていた。


靖くんが驚いた表情をあたしへ向ける。


「嘘だろ、そんなの全然知らなかった」


「必死で隠してたの。友達にからかわれるのも嫌だったし、靖くんに迷惑をかけるんじゃないかと思って」


「迷惑だなんて、とんでもない」


靖くんは左右に首をふってくれた。


「だから、ドライブスルー彼氏に靖くんがいたことは驚いたけれど、でも嬉しかったの。また会うことができて」


あたしが言うと靖くんは少し迷うそぶりを見せてから、あたしに手を差し出してきた。


あたしは驚いて靖くんを見つめる。


靖くんの頬は月明かりに照らされて、ほんのり赤く染まっているのがわかった。


あたしはおずおずとその手を握り、片手で自転車を押し始めた。
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