ドライブスルー彼氏
すぐに立ち上がり、あたしは靖くんに駆け寄った。


ナイフを奪われた明久くんは青い顔をしていたが、それでも逃げようとはしていなかった。


「靖くん、早く警察に行こう!」


幸いにも警察署はこの近くにある。


明久くんがしたことは立派な犯罪だし、このまま野放しにしていたら次にいる現れるかわからない。


ナイフなんて持参している人だから、今度こそ殺されてしまうかもしれないのだ。


恐怖心が全身をかけぬけたとき、靖くんが笑っていることに気がついた。


その粘ついた笑みは明久くんへ向けられていて、あたしは言葉を失っていた。


靖くんのこんな表情初めてみた……。


そう思った次の瞬間靖くんは明久くんへナイフを向けたのだ。


明久くんは後ずさりをする。


「ちょっと、靖くん?」


「こいつは俺たちにとんでもないことをしたんだ。少しくらいやり返したって平気だろ」


靖くんはジリジリと明久くんに近づいていく。


「で、でも。早く警察に知らせたほうが良いよ」


この状況を見たら、靖くんが悪者だと判断されてしまいそうだ。


だけどあたしはそれ以上靖くんをとめることができなかった。


ニタニタと笑って明久くんに近づいていくその様子が、恐ろしかったからだ。
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