SNSストーカー
「これで、俺を刺してくれ」


そう言って、ナイフの先端を自分の腹部に押し当てたのだ。


あたしは唖然として裕也を見つめる。


その顔は青ざめているが、恐怖でゆがんではいなかった。


「大丈夫。俺ことなら心配ない」


裕也が両手の力を込めて、グッとあたしの手を握り締めた。


あたしがナイフを離そうとしても、裕也は許してくれなかった。


「やめて裕也!」


ブンブンと左右に首を振って抗議する。


しかし、裕也は聞く耳を持ってくれない。


全身から汗が噴出して喉がカラカラに渇いている。


刃先が裕也の服にめり込んでいく。


これ以上進むと、本当に……!


「あぁ……愛してるよなっちゃん」


男の恍惚とした声に一瞬にして毛が逆立った。


いつの間にか男はあたしたちのすぐ横に胡坐をかいて座っていたのだ。


「あんたのせいよ……」


怒りで声が震えた。


平和な日常は、こいつのせいで破られた。


あたしたちはなにもしていないのに!
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