政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
面白くなったのか、もう一度両手を広げてこちらへ迫ってくる。私は壁に背を貼り付けて逃げ回る。
「焦ってないってばっ」
「逃げるなよ。桃香が真ん丸になったって、今さら俺は気にしないって。ていうか、もうそんなこと気にする間柄じゃないだろ」
どういう意味? もう子作りは終わったから、私が太ろうが関係ないということだろうか。
それはそれで、なんか……。
「うるさい! 夏樹のために気にしてるわけじゃないし、だいたい、もうこんな体、見せるつもりないから」
「はぁ? なに言ってんだ」
「だって、夏樹との子作りは終わったんだから! そうでしょ!?」
勢いが止まらず、言いきった後で焦りが湧いた。夏樹の眉根は寄り、口はへの字に歪んでいる。さすがに怒っただろうか。彼の茶化しを最後まで怒りで押しきったことは、これまでなかった。
「桃香、お前……」
このままでは夏樹に、言ってはいけないことまで言ってしまいそうになる。
「ごめん……ちょっと疲れたみたい。べつに夏樹のせいじゃないから。横になってくるね」
ムカムカする胃を気合いで呑み込み、私は夏樹を押し退けてリビングを出た。