政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
アベリアでの会議が終わった、夕暮れ時。
たまには一緒に帰ろうかと思い生徒会室に残っていた桃香を外で待っていると、中から桃香とアベリアのメンバーの話し声が聞こえてきた。
『姫川さんは、このまま政略結婚をしてしまっていいの? お相手は財前さんといえど、これからなにが起こるかわからないじゃない?』
俺は扉の影に隠れ、聞き耳を立てる。誰だか知らないが、余計なことを。せっかく桃香もその気になっているんだから、変なことを吹き込むなよ。
『いいの』
桃香の返事が掠れ声だったため、俺は気になり、扉の隙間から少し中を覗いた。
すると桃香の表情は今まで見たことがないくらい切なく、瞳を潤ませていた。
『……初恋は叶わないって、よくいうもの』
『え? なんて? 姫川さん、もう一度言って?』
『なんでもないわ! とにかく、これでいいのよ、私は』
会話を終えたふたりがこちらへ近づいてくる。
俺は踵を返し、生徒会室から離れ、頭を真っ白にさせながら自宅への道を逃げて帰った。
俺には聞こえてしまった。
知らなかった。桃香に、ほかに好きな奴がいたなんて──。