政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
表面上だけもとに戻ったところで私の想いは宙に浮いたままだが、これも結婚したときに覚悟していたことだ。
今さらどうにかしたいなんてワガママは許されないし、悲しんだところでこの関係は途中ではやめられない。
「……できたわよ、夏樹」
「ん。サンキュ」
似合うと思って真剣に選んだこのネクタイ、久しぶりに見ても、やっぱり似合っている。無意味なときめきを感じ、また気持ちが重くなった。
彼を見送るため玄関までついていく。
「そういえば、今日定期検診行くんだろ?」
靴を履きながら尋ねられ、私は鞄を渡して「うん」とうなずく。
「ひとりで大丈夫か?」
「大丈夫よ。私のことはいいから、夏樹は大事な商談に集中して」
「お前いっつも平日に予約してくるんだもんな。俺も一緒に行きたいから、土曜に入れろよ」
私は「そうね」とから返事をした。ついて来られたら、減量や食べづわりのことがバレてしまう。夏樹には余計な迷惑かけたくないし、今後もついて来てもらう気はまったくない。