政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
『桃香』
夏樹の声が、どこか遠くから聞こえてくる。それは水の中のように籠っていて、耳に届くまでに何度も波打つ。
私は夏樹の子を身籠っている。それは誰にもできないことで、特別で、愛しいことだと思っていた。それなのに、実際はとても孤独で、こんなにも不安に満ちている。
夏樹と気持ちが繋がっていれば、こんな気持ちにはならないのだろうか。
私は本当に、このままで大丈夫なの……?
「桃香。桃香?」
声が突然大きくなった。するとぼんやりと見えていた水面は幻のごとく消え去り、私は夢から覚めたように、瞼を開く。どこかの天井の明かりがピカッと目を刺激する。ここは、どこ?
「桃香っ」
再度聞こえてくる声とともに、眩しい視界に夏樹の顔が現れ、ハッとした。
「な、夏樹……」
「大丈夫か、桃香。気を失ってたんだぞ」