政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

私の名前は、財前(ざいぜん)桃香。二十五歳。旧姓は姫川(ひめかわ)
繊維業界大手『姫川紡績(ひめかわぼうせき)株式会社』の令嬢で、今ふたつ隣に座っている父が社長を務めている。

そして、向かいにいるのが私の夫、財前夏樹。同じく二十五歳。
製紙業界大手『株式会社ザイゼン』の御曹司で、これまた同じく同席しているお義父さんが現在の社長を務めている。

包装事業の国内シェア一位を誇る『ザイゼン』はパッケージングの新素材を開発した『姫川紡績』と切っても切れない関係で、どちらも世襲企業のせいか昔から家族ぐるみの付き合いが続いている。

同じ年にひと月違いの夏に生まれた私たち、夏樹と桃香。
ふたりを許嫁にしよう、将来は結婚だ、と親戚一同にもて(はや)されながら育ち、反発しないまま本当に結婚してしまった。

夏樹は『ザイゼン』の販売企画部の課長として修行中で、私も将来、夏樹とともに『ザイゼン』のサポートをすることが決まっている。
現在は子供を持つ予定もあるだろうということで、会社関係の活動は御曹司の妻として社交の場に同行するに留めている。

「役員たちもすっかり、才色兼備な桃香ちゃんの(とりこ)なんだ。こっそり〝亜麻色(あまいろ)の髪の乙女〟だとか噂しているよ」

「まあ、そんな」

昔から色素が薄い自分の髪に触れながら、おじさまにフフフと相づちを打つ。
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