政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
こちらもスマホを構えたが、ふと思い出した。たしか美砂は大事な用があるから帰ったのだと、夏樹が言っていた。それならむやみに電話をしない方がいいのかも。
私はダイヤル画面からメッセージ画面に切り替えた。
【驚かせてごめんね、美砂。無事に目が覚めました。注射をしてもらって今は元気です】
と打ち込み、送信を押す。とりあえずはこれでいいだろう。
自分が電話をしなかったことで、夏樹の寝室からは彼の声がかすかに聞こえている。
というか、どうしてわざわざ寝室?
廊下で電話してもいいのに。
不思議に思ったのと、夏樹が職場では私のことをなんて話しているのかが気になり、好奇心から足は声のする寝室へと向かう。
足音を消すためにスリッパは履かず、タイツの足のまま廊下を歩く。聞き取れない彼の声は近づくにつれて粒がはっきりとしてきた。
「本当にすみませんでした。商談出られなくて」
ドアの前に立ったとき、中からはっきりとそう聞こえた。