政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
夏樹は商談が終わってから病院へ来た、と言っていたはずだ。信じて疑わなかった。だってケロッとした顔をしていたから。
好奇心で動いていた足はもう動かず、声も出ない。耳ばかりをそばだて、聞こえてくる言葉を扉の向こうから引っ張り込もうと試みる。
「社長の息子が来るって先方も期待していたと父に聞きました。飯田さんだけで大丈夫でした?」
電話の相手は、飯田さんらしい。かろうじて知っている。
本人を見たことはないけれど、おじさまと夏樹との会話の中でときどき耳にする、夏樹の部下でありながら指導役でもある〝課長補佐〟という役職の人だ。
かなりできる人で、御曹司ゆえ若くして課長になった夏樹をサポートしているらしく、夏樹はいつも飯田さんに信頼を置いている口振りだった。
私のせいで、飯田さんと臨むはずだった大事な商談を、ドタキャンしてしまったの?