政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
「成約になりそうでよかったです。さすが飯田さん。きちんと今度俺が先方へ謝罪しに行きますから。……いやまあ、そりゃ俺も商談は大事ですけど、奥さんが倒れたって言われたらどうしようもないですからね。奥さん優先ですよ」
苦笑いを交えたその言葉に、胸が軋むように痛む。夏樹は夫としての務めを果たしたばっかりに、仕事に支障が出てしまった。
私がもっとうまくやって、食事も体重もキープして、気分が悪くなるなんてワガママ言わずに貧血の錠剤を飲んでいればよかったのだ。それで結局夏樹を困らせ、迷惑をかけている。
しかもついさっき、それがうれしいだなんて思ってしまった。妻失格だ。
ドアの中心を見つめていた視線はしだいに下がり、ドアノブ、足元へと落ちていく。自分が情けなくて、顔が上げられない。
「ハハッ。すみません、気をつけます。飯田さんのそういうところ、同じ女性なのにうちの奥さんと全然違うんですよね」
……え?
今、なんて言ったの?
「うちの奥さんも、少しは飯田さんを見習ってほしいですよ」
私は唇を押さえた。目元はあっという間に涙でいっぱいになり、ポロリと頬を落ちていく。
全然知らなかった。飯田さんが女性だったなんて。
そして、彼女に私を卑下していることも、初めて知った。