政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
4.初めての日と今
桃香が貧血で倒れた日から四か月が経ち、季節は梅雨に変わった。低層階のレジデンスからは中庭の緑が見え、穏やかな時が流れている。
俺たちも例外ではなく、あれから波風を立てずにうまくやっている。
しかし、桃香の様子がなにかおかしい。そもそも波風が立たないというのは、俺たちの間では普通じゃない。俺の挑発に対抗して赤い顔で憎まれ口を叩くのが通常運転だったろ。
「……桃香」
キッチンで料理をしている桃香の名前をつぶやいた。
「ん? なに?」
憎らしくも、特別愛らしくもない普通の返事をされる。笑っても怒ってもいない。感情が読めない。桃香の整った眉は左右対称でピクリともしてくれなかった。
「最近、体調はどうなんだ」
「元気よ。心配しなくて大丈夫」
俺は小さく「そうか」と相づちを打ち、座っていたソファにさらに沈む。こちらも、なにを話したらいいのかわからなくなっている。
今まで普通の会話ができていなかったわけじゃない。俺と桃香は長い付き合いだし、こっちの片想いを除けば、桃香とはなんでも話せる仲だと自負している。
でも、今はなにかが違う。