政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
「ねえ。お肉と野菜焼くだけだけど、いいよね」
キッチンからの声に「お、おう」と返事をした。
高い素材を買っているせいか、ジューという油のいい音と香ばしい匂いが漂ってくる。付き合いのある料亭が定期的にくれる甘ダレをかけて、ご飯とみそ汁と一緒に出してくれる桃香の定番のメニューだろう。
いつもと変わらない。
桃香はもう妊娠六か月になるのに、まるで妊娠していないみたいに見える。
触れていないから確かめられないが、おそらく腹も少し大きくなったはずなのに。
間違いなく身ごもっているのだから、桃香は母親というものを実感しつつあるのだろうか。実のところ、俺の方は父親になっている感覚がまるでない。それどころか最近は、桃香の夫であることも、よくわからなくなっている。
まるでただの同居人だ。セックスをしなくなってから、よけいに。