政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
「夏樹……?」
突然手を止めた俺に、腕の中の桃香は怪訝そうな目を向ける。
これじゃあ桃香に甘えているだけじゃないか。妊娠して不安になっている彼女に頼られないのは、俺の力不足以外の何物でもない。
「……いきなり悪かった」
乱れた髪とスカートを綺麗に整えてから、桃香をソファの上に戻した。呆気にとられ人形のようになっている桃香の頭を撫で、「食べよう」と座り直す。
「夏樹? あの、もし我慢できないなら、私……」
「大丈夫。そういう気分じゃなくなったし」
桃香の表情は固まっている。
「俺、ちゃんとお腹の子の父親になるから。今までごめんな、桃香」
桃香は小さく「……うん」と返事をした。俺は箸を持ち、手を合わせ、作ってくれた料理に手を付ける。
なぜか、桃香はしばらく、なにも言わなかった。