政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
5.もう夫婦じゃいられない
『そういう気分じゃなくなったし』
数日経っても、夏樹の言葉が頭の片隅をえぐるように残っている。
気分じゃなくなったって、どういうことだろう。まさか私以外に相手をする女性がいる、なんてことではないだろうか。
夏樹は賢いし、私や両親を軽率に裏切るような人ではない。
でも、盗み聞きしてしまった飯田さんへの電話で話していた夏樹は、まるで別人のようだった。
〝不倫〟。
信じていた夏樹に対して、初めてその二文字が浮かんでは不安が募る。
可能性は低い。ちゃんと夕飯前に帰ってくるし、私やお腹の子の様子を気にかけてくれている。
しかしあのとき私のお腹に触れて、明らかに彼の様子が変わった気がする。
私自身は、この膨らんだお腹を、日に日に愛おしく感じている。
夏樹の前で妻として振る舞った翌日、ひとりの時間に泣きそうになるっていると、このお腹の中の赤ちゃんが動いてまるで私を励ましてくれるようだった。
この子のために生きよう。母として立派になろう。夏樹との問題は、忘れよう。
胎動を感じるたびにそう思うのに、夏樹の本心が見えなくて何度も揺らぐ。
『ちゃんとお腹の子の父親になるから』
これからは夫よりも父親の立場に徹すると宣言されたようで、言い様のない寂しさを感じた。
この子を介して三角形のように夏樹と向き合いたいはずなのに、私たち夫婦の一辺だけが、まるで繋がっていない。