政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
肩を支えられながら、いつものクリニックの受付を済ませ、診察室へと入った。
「財前さん、具合はどうですか?」
私を見てマスクの上の眉を少し歪めた女性の先生は、体重と血圧に言及するより先に体調を聞いてきた。
「あ……はい。胎動もあって、元気です」
私がそう答え、お腹に触れる。ちょうどまた動き、苦しくても微笑ましい気分になった。
自分の体調はよくわからない。不安になってインターネットで調べてみても、息苦しくなったりお腹が張ったり、思うように動けないのはこの時期は当たり前のことだと書いてあった。
つらいと感じても、それは母親になるために皆が耐えていることなのだ。
しかし横で立っていた夏樹は、
「立つのも歩くのもしんどいみたいで、前より動けなくなっています。俺の目の届かない日中は無理して家事をしているようだし」
と答え直す。
その通りで、反論できない私はうつむく。
「妻の実家も都内ですし、早めに里帰りさせた方がいいですか。このままで大丈夫なのか不安があります」
次々に先生に意見する夏樹に、私は頭が混乱していた。まだ予定日まで2か月もあるのに里帰りするなんて、それでは夏樹に甘えすぎだ。