政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~
「夏樹……」
「産まれそうだって、桃香。がんばれるか?」
「……うん……」
手を握ってくれる彼にもたれかかり、一緒に個室へ戻る。
ちょうど昼食が運ばれてきていたが、食べる気にはなれなかった。
「財前さん。体力勝負ですから、食べられるときに食べてくださいね」
助産師さんは、なんてはことない、という笑顔を向けている。この病棟ではこれが日常茶飯事なのだろう。
入院も早産も珍しくなく、いつも誰かがここで出産している。
「……私の赤ちゃん、無事に産まれるんですか」
妊娠前の自分では考えられないほど、情けない声が出た。
私にとっては全然、日常ではない。怖くてたまらない。
痛いのも怖いし、これからどうなってしまうのかもわからない。そんな自分を夏樹に見せて、どう思われるのかも想像がつかない。
「桃香」
夏樹の大きな手が、頭を撫でる。別れ話を保留して労ることに徹してくれる、最後まで夫として完璧な夏樹と、お産が終わったら離ればなれになるのがたまらなく怖い。