綾取る僕ら
ドギツい化粧の目が俺を捉える。
やばい。

なんて、言ったらいいんだ。

仁さん、俺、なんて言ったらいいですか?

チラッとバッグミラー越しに目が合う。

その目が事のマズさを物語っている。

やばい、やばい、やばい、悠人がどうにかしてくれ!

そんな目。
絶望的。

「鍵貸して部屋に泊めたんです」

俺は思わずそんな嘘を出した。

「鍵だけ貸して、俺はゴンさん家行きました」

俺の言葉に、なぜか静まり返る車内。

なんだろう、何かダメだったか?

またミラー越しに目が合った。

どうでしたか?この嘘、ダメですか?

その目から全然読み取れない。

「そう、そうそう!」

仁さんが突然大声を出して同調してきた。

「なんか知らないけど悠人ん家にいたの、俺だけ!」

そう言ってハハハと笑う。

麻莉姉になぜか俺が睨まれる。
本当に言ってんの?みたいな目。

ごめんなさい、嘘つきました。
そいつ、仁さんは綾香ん家に泊まってました。

でも俺は絶対にそんなことは言わない。

絶対に綾香に被害が及ぶようなことは言わない。

ゴンさんがやっと「でさ龍平の言ってた動画なんだけど」と話を戻した。
何とか一件落着。

球場までの道のりがやけに長く感じた。
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