綾取る僕ら
大切な人
大講義室の右後ろの方。
面倒くせえなーと思いながらダラダラとペンケースやノートを机の上に出してると、その人は隣にフラフラと腰を下ろしてきた。

「おはよー」

顔に似合わなく、ちゃんと挨拶をする。

「おはようございます」

仁さんは可愛いことに、この授業は俺がいるからという理由で(もちろん単位落としてやばいからっていう理由が強いと思うけど)休まずに出席してる。
ノートも、下手くそな字で取るようになった。
俺は密かに可愛らしい仁さんの成長を感じていた。

「仁さん」
「ん?」
「仁さん、ちょっとちゃんとしてくださいよ」

シャープペンの芯を2本セットしながら言う。

「なにを」

仁さんはそう言ってから「ルーズリーフ2枚くらい貸して」と言ってきた。
俺は優しいから2枚袋から抜き出して渡す。

「綾香で遊ばないでください」
「ああ」

仁さんはそう言って意味ありげにニマニマと口元に笑みを浮かべる。
何かあったんだろうか。

「悠人さ、俺と麻莉乃が別れる前に早くした方がいいよ」

絶対言わないと思ってた「別れる」というフレーズに俺の脳みそが固まる。

「まー、麻莉乃と別れたからってイコール綾香と付き合うってわけじゃないけど、このままだと俺、綾香ん家に入り浸りそう。入り浸って、なんとなーーく付き合うっぽくなるんだけど、俺が飽きて冷めそう」

机に伏すような姿勢で俺を見上げる。

「殴りますよ」

俺が鼻で笑うように吐き捨てると、「だよねえ、最低だよねえ」と笑う。

< 32 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop