綾取る僕ら
ガラッと前方のドアが空いて教授が入ってきた。
入ってきたからといって、シンと静まり返るわけではないのがこの教授の授業の特徴だ。

「麻莉姉のことも、綾香のことも、俺のことも弄んでるじゃないすか、最低ですよ」
「うん、分かってる」

腕の谷に沈みこんだその顔は困ったように笑ってる。
たぶん、困ってるのかもしれない。
でも楽しんでるような気もして、もしそうだったら俺はこの人が嫌いだ。

「麻莉乃のことも、綾香のことも好きじゃないんだろうね」

隣の席の俺にだけやっと届くような小さな声で言った。
俺は黒板から視線を逸らさずにいる。

「好きーーって、俺分からないんだよね。でも綾香はそんな俺でも全然気にしてないから、その都合の良さに甘えてんのかもな、あ、でも俺、悠人のことは大好きだよ」

チョンチョン。
俺の脇腹をつつく人差し指。
分かる。
この人のことを嫌いになれないのは、麻莉姉も綾香も俺も一緒だ。

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