綾取る僕ら
降りると、チラホラと電車を待つ人がいた。
俺たちは適当にベンチに腰掛ける。

「なんか飲む?」と聞くと、綾香は目を細めて「ああ、飲みたい」と笑った。

「買ってくるよ、何がいい?」
「炭酸の入ったやつ。ぶどうか柑橘系」

俺は「オッケー」と言って、一人自動販売機に向かった。
綾香の言う、「罪悪感」が気になって仕方なかった。

電車は空いていた。
赤字にならないのかな、大丈夫かな、と心配になるほどに。

二人並んで座る。

「これが二時間はちょっと長いよ」
「だね」
「なんか面白い話してよ」
「ないよ」

まだ二駅しか過ぎてない時点でお互い電車旅に飽きていた。
ガタンゴトンという不規則な心地良い揺れが永遠に続くような気がする。

コツンと肩に当たった。
綾香の頭。

ハッとしたように綾香が頭を離して俺を見る。

「一瞬寝落ちしてた」

焦ったように笑う。

「いいよ、寝て」
「まじで?」
「いいよ、時間かかるし」

綾香が安心したように笑う。

「じゃあ、ちょっと肩借りるね」

そう言うと、全く照れる様子もなく俺の肩に寄りかかってきた。

こういうこと、俺が仁さんだったらできなかったくせに。

俺は平然を装いつつも、緊張しすぎて眠れない時を過ごすはめになった。
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