綾取る僕ら
突然、ふわっと悠人が浴衣をまとった両手を大きく広げる。
やっぱり腕も長さが全然足りてない様子に、思わず「ふふ」と変な笑いが漏れてしまった。

「なに」

悠人も笑う。

「いや、浴衣のサイズ足りてなくてダサいよ」
「仕方ないじゃん」

私は笑ったまま立ち上がって、その広げられた腕の方にゆっくり歩み寄る。
この腕の中に飛び込んだら、何か変わるのか、何も変わらないのか、自分でもその向こう側が見えない。

向き合うようにそっと悠人の椅子の上に乗ると、悠人の腕が優しく私を閉じ込めた。
悠人がジッと私の目を見つめるから、私も逸らすことができない。

「本気なの?」

私が確認すると悠人はゆっくり頷く。

「俺は綾香のこと大切にするよ」

悠人の顔が静かに近づく。
慣れてない感じに緊張する。
悠人はこれ初めてなのかな、なんて余計なことを考えてしまった。

初めてがこんなんで、初めてが私で、悠人はいいのかな。

仁さんはいっつもさっくりしてったけど、あれは慣れてたからだ。
あんな軽さなら案外平気だったりするのに、悠人が緊張してるせいで私も心が身構える。

静かに唇が重なり合う。

なんの癖もついてない、普通のキス。

これは私たち、付き合ったってことになるのかな。
悠人の告白を受けたってことなのかな。

まだもう少し、決定打に欠ける。
もう少し、悩もう。

私は答えを出さないままにする。

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