綾取る僕ら
昔から長距離が得意な私は、早々に穂乃果と別れた。

一人で走るのは気持ちがいい。
起伏はあるけど絶景だし、疲れるけど頭空っぽにできるし。

曇り空だけど、こんな日はマラソン日和だ。
途中、水分補給と一緒におまんじゅうも支給された。

少し休むようなペースでそれを食べる。

楽しい。

6キロ過ぎた時、パラパラと少ない人の中にその姿を見つけた。

仁さんだ。

ダラダラと諦めたように歩いてる。

「仁さん」

なんか突然出会えた知り合いの姿に嬉しくなって、思わず声をかけてしまった。

「おお、早いな」と少し笑顔を作って言う。

「抜いていきますねー」

私は走る足を止めることなく通り過ぎようとした時、「待って」と呼び止められた。

いいペースで走ってたのに、歩いてる人に呼び止められると結構困る。

「ええー」

大袈裟に嫌な顔を作ってみせた。
仁さんは笑いながら口を開いた。

「昨日、麻莉乃と別れたんだけど」

ストレートな言い方に、私は足がスローダウンする。

「え・・・なんでですか」
「喧嘩別れ」

仁さんが情けないような、気の抜けたような笑みを浮かべる。

私が原因なんだろうか。

表情にモロに心の声が出てたらしい。

「大丈夫だよ、綾香の名前は全然出してないよ」

仁さんが優しく言う。
正直、かなりホッとした。

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