綾取る僕ら
寺田仁。

「綾香、綾香、大丈夫?」

俺の耳に入ってくる仁さんの声。

ゴンさんに強く押されながら、視界の端で起きてるストーリーを焼き付ける。

仁さんが道路沿いに立ってタクシーを止める。

まさか。

一台のタクシーが止まる。

まさか、まさか。

仁さんが綾香の脇の下に体を滑り込ませて何とか歩かせてタクシーに向かう。

ああ、ダメ、だめだよ。

一緒に乗ったらダメだよ。

そんな俺の願いは無駄に、仁さんは綾香を乗せた流れでスマートに一緒に乗り込んだ。

なんで、なんで俺にはタクシーの初乗り運賃すらも余裕がないんだろう。

なんでさっき、タクシーをケチってしまったんだろう。
バカだ、俺はバカだ。

俺の視界の端から、二人を乗せたタクシーは夜の道へ颯爽と消えて行く。

ちょっと待って、ちょっと待って。
俺に代わって下さい。

完全に消え去ってから、焦る俺の心。

どうしよう、仁さん実家だし、完全に泊まる気だよな?

焦る俺の心なんて知る由もなく、ゴンさんは強く肩を押し続け、男三人で夜道を歩き続けた。
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