綾取る僕ら
宅配便?

心当たりはない。
普段、滅多にならないチャイム。
こわ。

黙り込んで居留守を使う。

またピンポーンと鳴った。

台所の電気付けっぱなしだ。

息を潜める。

と、ドンドンと少し強めにドアを叩かれた。

す、すとーかー。

パッと頭に浮かんだのは、「大学一年の石崎綾香さんが腕や背中など刃物で数カ所刺され、部屋で死亡しているところを発見されました」というニュース。

ここで開けたら、事実になってしまう。

途端にドアが安物のペラッペラに見えてしまった。
まさか鋭利な刃物で突き刺すなんてことはできないよね?

そう、疑いながらドアを見つめると、「俺だけど」と声がした。

「綾香?いる?」

悠人の声だった。

やっと心が解き放たれたような安心感に包まれる。
事件に繋がらなくて良かった。

レンズを覗くと悠人がそこに立っていた。

深い安堵のため息が漏れる。
私はそっとドアを開けた。

「なんでバスケ来なかったの」

開口一番、悠人が言う。
言いにくそうにしてると、悠人と目が合う。

「麻莉姉?」
「うん、まあ、そうだねえ・・・」

身長のせいで、見下される格好になる。
こいつ馬鹿だと思ってんだろうな。

はいはい、そうですよ、怖くなるなら最初から何もしなきゃ良かったんですよ。

悠人の大きな手が私の頭にポンと置かれる。
少しだけ重みを感じる。
それは安心感の重みだった。

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