死にたがりな君と、恋をはじめる


「どうして誠おばさんが謝るの……?」










半ば呆然としつつそう呟くと、誠おばさんは腕の力を強めた。











「……さっき私自殺を止めないって言ったでしょ? ……でも、止めないなんて、無理だね」







「え……?」










「だって……今だって想像するだけで、手が震えて、頭が真っ白になってるんだもん」














そう苦し気に漏らした誠おばさんの腕は確かに震えていて、私は息をついた。











……私は、何をしているんだ。












心配してくれる人の存在も忘れていた。













屋上から飛び降りる時も、そんな悲しんでくれる人なんていないなんて思って。













困っていたら手を差し伸べてくれる。









そういう人はちゃんといたのに無視して、自分で自分の殻に閉じこもっていたんだ。















自分への憤りから、拳を爪が食い込むほどきつく握りしめた。












それから、ひとつ息を吐いて、誠おばさんの身体を抱きしめた。















……誠おばさん、ごめんなさい。












私は悪い子だ。















謝っても、謝っても足りなくて、気が済まなくて。











謝罪するかわりに、誠おばさんの身体を強く、強く抱きしめる。












そんな様子の私に、誠おばさんは少し驚いたように眉を上げて、それから嬉しそうに笑って、頭を撫でてくれる。















今までは胸のあたりに風穴があいていて、風がビュウビュウと吹きぬけていて。














その風穴が今、ようやく埋まった気がする。












誠おばさんの太陽のような匂いが、鼻をついて落ち着く。









そっと目を閉じて、誠おばさんに身を任せる。


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