イジメ返し―連鎖する復讐―
「分かったよぉ。センセがそう言うなら瑠偉も咲綾のこと許してあげることにするよぉ」

「よかった……。さすが瑠偉。お前は本当にいい子だね」

「ふふっ、センセに褒めてもらえて瑠偉嬉しいなぁ」

ニコニコと笑う瑠偉の髪を優しく撫でる。

なんて従順で可愛い子なんだろう。

「ありがとう、瑠偉。今の咲綾を見てくれ。体育館の端っこで一人で休憩をしてるぞ。瑠偉が声をかけて3年の輪に入れてやってくれ。いいか?できるな?」

イジメが始まってからいつも苦しそうな表情で部活に参加していた咲綾が今日は別人のように生き生きとしていた。

少し前までは目の下をくぼませていつも暗い表情をしていたのに……。

海荷がいなくなって自分がレギュラーの座に就ける可能性がでてきたからなのか?

それとも……。

「……うん。やってみる」

一瞬瑠偉は躊躇ったような表情を浮かべたものの、俺の言葉に素直に応じて咲綾に歩み寄った。

ひとまず目に見えて咲綾がハブられている状況を周りの人間に気付かせなければいい。

裏で何をやっていようが大いに構わないが、部活中だけは仲良しこよしを演じろ。

引退まであとわずか。大きな問題を起こさず引退してくれさえすればそれでいい。

体育館の端に座る咲綾に瑠偉が言葉をかけると、咲綾はふいっと瑠偉から顔を反らした。

瑠偉が再び咲綾に何かを言っているがこちらには聞こえない。

二人の間に険悪な空気が流れているのがはた目にも分かった。

「センセ、やっぱり無理ぃ。瑠偉、咲綾のこと大っ嫌いだもんっ」

再び俺のもとへ歩み寄った瑠偉の目には怒りがこもっている。

俺はやれやれと心の中でため息を吐いた。
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