イジメ返し―連鎖する復讐―
「突然夜道で声をかけるなよ。驚くだろ」

「――先生、これ見て!!」

咲綾が今にも泣きだしそうな顔で俺にスマホを差しだした。

「何だこれ。俺にもこの文字が……」

咲綾のスマホにもAirDropという文字が表示されている。

「これ、エアドロ痴漢ですよね?」

「エアドロ痴漢?画像を誰かが送り付けてきたって言うのか?」

確か少し前、電車内などで第三者から卑猥な画像が勝手に送り付けられてくるとニュースになっていた気もする。

俺がスマホ画面を差し出した瞬間、神宮寺エマが受け入れるをタップした。

「おい!!勝手になにやってるんだ!?」

「だって、何が送られてきたのか気になるじゃないですか」

ニッと笑ったエマに苛立ちながら画面に目を落とした。

「……?」

画面に表示されたのは卑猥な画像ではなく、文字だった。

折原一郎の真実
教え子に手を出す変態教師
証拠はスマホの中にある

画面の文字に喉の奥から変な音が漏れた。

「え、文字?」

「なっ!!み、見るな!!」

スマホ画面をのぞき込もうとする咲綾とエマ。

俺は慌ててスマホを隠した。

「今、折原って書かれてませんでしたか?」

エマが真っすぐ俺の目を見て言った。

背筋が一瞬で冷たくなる。

「ま、まさか。深山、お前のスマホを出しなさい?」

「え……?」

俺は咲綾のスマホ画面から辞退という部分を指でタップした。

「もう大丈夫だ。先生が見られないようにしておいたぞ」

「ありがとうございます……」

「どこかの変態が一方的に送り付けてきたんだな。怪しい人間は見なかったか?」

「さっき近くにおじさんが歩いてましたけど……」

おじさんだと?俺の秘密を知っている人間が近くにいたのか?

キョロキョロとあたりを見渡してもそれらしき人物は見当たらない。

「ねぇ、先生。さっきちらっと画面見えちゃったんだけど教え子に手を出すって書かれて―ー」

「―ーふざけるな!変ないいがかりはやめろ!」

俺は咲綾の言葉を遮って叫んだ。

「どうしたんですか、そんなに興奮して。先生、怖いですよ?」

エマが冷めた表情で俺を見つめる。

「うるさい!」

「エマに怒ってるんですか?」

彼女は俺の気持ちを見透かすように鋭い視線を向ける。

思わずごくりと唾を飲みこみ、気持ちを落ち着ける為に息を吐く。

「い、いや、違う。とにかく、もう暗いし早く帰りなさい」

神宮寺エマの存在は知っていた。どこにいても何をしていても彼女は目立つ。

初めて見た時からエマに得体のしれない違和感を覚えていた。

今もそうだ。彼女と話していると、じりじり何かに追い込まれているような嫌な気持ちになる。

「先生、スマホの取り扱いには十分注意した方がいいと思いますよ。個人情報の塊だから」

エマはそう言うと、咲綾のとともに呆然と立ち尽くす俺を抜き去っていった。

「マズい……。誰がこんなことを……」

焦燥感が一気に全身を駆け巡る。

俺はスマホをギュッと握り締め駆け出した。
< 159 / 252 >

この作品をシェア

pagetop