イジメ返し―連鎖する復讐―

「神宮寺さんって２年なのにどうして咲綾といつも一緒にいるの？友達いないの？」

嫌味を込めてそう尋ねるとエマはにこりと微笑んだ。

「エマが誰といようが早乙女先輩に関係ありますか？」

「何その言い方。言葉遣いに気を付けてよ」

ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって。

イラッとしてエマを睨むと、エマは余裕気な表情でこう言った。

「付き合ってた折原先生が行方不明になっちゃってイラつくのも分かりますけど、そのイライラをこっちにぶつけないでもらえますか？」

「何言ってんのぉ。瑠偉とセンセーが付き合ってるわけないでしょ」

「エマ、知ってるんです。早乙女先輩が少し前にしばらく練習を休んでたのって先生との赤ちゃんができたかもって心配だったからですよね？」

「なっ……」

思わず目を見開く。どうしてこの女がそんなことを……。

確かに数か月前、あたしは２か月部活を休んだ。

その理由はエマが話した通りだ。１か月以上生理が遅れたからだ。

生理不順でもなかったし、今まで１か月も遅れたことなどなかった。

そのときに関係を結んでいたのは折原だけではない。

避妊には細心の注意を払っていたつもりだったけれど失敗してしまったのかもしれない。

生理が来ないことがストレスになり精神的に参っていて部活に参加するどころではなくなっていた。

でも、どうしてそれをエマが……？

「折原先生に直接聞いたんです。先生、困ってるみたいでしたよ？」

「……は？何言ってんのよ、アンタ」

「おバカな早乙女先輩に教えてあげます。人から大切なものを奪った人間は、奪い返されるんです」

「なによそれ」

「そして、自分の大切なものを奪われた時、初めてそれを後悔する。自分の愚かな行いのせいで大切なものを失うことにならないように気を付けて下さいね」

エマの言葉にこめかみが震える。

「アンタ、さっきから何勝手なこと言ってんのよ。先生に直接聞いた……？なによ、アンタも先生と関係があったってこと！？」

思わずバンッとテーブルを叩く。

「アンタも、っていう言い方やめたほうがいいんじゃない？自分が先生と関係があったってこと認めたことになるよ？」

咲綾が楽しそうにあたしの揚げ足をとる。

「あたし、先生と瑠偉が親し気にしてるところ見たの。折原先生はあたしにもちょっかいだそうとしてきたんだよ？あんな変態教師のどこがよかったの？」

バカにしたような言い方をされて腸が煮えくり返る。

こいつ……、エマっていう仲間がいるからって調子に乗って。

ここが店の中じゃなかったら引きずり倒してやるのに。

「さっきからなに……？咲綾、アンタ調子に乗るのもいい加減にして。自分の立場考えたら？」

「あたしは今まで一度も調子に乗ってなんていない。それに、自分の立場ってなに？あたしは瑠偉とも同じ立場だよ。それともあたしが瑠偉より下だっていいたいの？」

「当たり前でしょ。アンタはカーストの最底辺にいる人間なんだから」

「ホント、最低な人。やっぱり瑠偉はイジメ返しされるべき人間だね」

咲綾の言葉に首を傾げる。

「イジメ返し……？なにそれ」

「海荷も折原先生も……あたしがエマに協力してもらってイジメ返ししたの。あたしがされた分の苦しみや痛みを与えてやった」

「は？」

「次は瑠偉の番だよ」

「アンタ、いい加減に――」

怒りで顔がみるみるうちに赤くなっていくのが自分も分かった。

言い返してやろうとした瞬間、こちらに向かって歩み寄ってくる照くんの姿に気が付いた。