イジメ返し―連鎖する復讐―
「瑠偉、ごめんな。遅くなっちゃって」
照くんが申し訳なさそうにへこへこと謝りながらあたしの前の椅子に腰かけた。
「……ううん、大丈夫。気にしないでぇ」
チッ。タイミングの悪い男。
心の中で盛大な舌打ちを打つ。
「なにか頼もうか。何飲む?」
「瑠偉はアイスティー」
「オッケー。頼むね」
照くんが注文している間もあたしは隣の席の咲綾とエマが気になって仕方がなかった。
席同士の間隔は広くないし、ここで照くんとする会話はすべて二人に筒抜けだ。
さっさと飲み物だけ飲んで店を出よう。
届いたアイスティーでカラカラに乾いてしまった喉を潤していると、照くんが「あっ」と声を上げた。
「隣の席の子、深山と2年のエマちゃんじゃない?」
照くんが小声で囁く。
「だったらなに?」
今気づくとかどんだけ周りが見えてないのよ。
「ヤバい……。こんな近くで見るの初めてなんだけど。超可愛い」
「そうでもないでしょ。あのぐらいの子都会に出れば腐るほどいるもん」
「いや、マジで可愛い。同じ人間とは思えないよなぁ」
照がチラチラと視線を送るとそれに気付いたエマがニコリと微笑んで照に小さく頭を下げた。
「やっべぇ!俺微笑まれちゃったんだけど」
あたしがいるというのに輝くんは隣の席のエマのことばっかり気にしている。
なんなの、こいつ。今日、家に遊びに行ってやろうって思ってたけどやめようかな。
「照くん、ひどーい。瑠偉と一緒にいるのに他の子のことみないでよぉ」
「ごめんごめん。だって、エマちゃんは別格じゃん」
「……は?」
別格?エマがあたしより優れてるって言いたいの?
確かに可愛いかもしれないけど、性格は最悪じゃん。
さっきだって年下のくせにあたしに説教まがいのこといってきたし。
「照くん、瑠偉だけみてよ」
口を半開きにしてだらしない顔の照くんの指に自分の指を絡ませる。
上目遣いで「ねぇってば」と小声で囁いたものの、照くんの視線はいまだにエマに注がれたままだ。
悔しい。なんでよ。なんであたしがあの女に負けなくちゃいけないわけ。
「ねぇ、照くんってば~」
そう言った瞬間、目の前にあったアイスティーのグラスが誰かによって持ち上げられた。
「え」
声に出した瞬間、頭のてっぺんから首筋にかけて一気に冷たくなった。
「何!?」
自分の身に何が起きたのか分からず狼狽えていると、照くんが青ざめた表情であたしの後ろに視線を向けた。
「ゆ、唯……。なんで?」
振り返るとそこには鬼のような形相であたしを見下ろす唯が立っていた。