イジメ返し―連鎖する復讐―
「せっかくここまできたのに……」

呆然と立ち尽くしていると、「深山さん!!」と誰かがあたしの名前を呼びながら駆け寄ってきた。

「神宮寺さんがどうして……?それよりさっき1,2年生から今日は行けないって連絡があったの。何か聞いてる!?」

目の前までやってきたデブセンは顔を青ざめさせ今にも泣きだしそうだ。

その顔が癪に障った。

「デブセン!!アンタ、何もできないけど一応顧問でしょ!?さっさと何とかしてよ!!アイツらのこと引きずってでもつれてきて!!」

「そうよね……。このままじゃ試合が出来ない……。深山さんの三年間の努力が水の泡になってしまう……。どうにかしてみんなを説得してみるから。少し待ってて!!」

デブセンが再び電話を耳に当てて駆けていく。

「自分のやったことを棚に上げて人に当たり散らすなんて最低ですね」

エマは心底呆れた様子だ。

「うるさい……。元はと言えばこんなことになったのは全部エマのせいでしょ!?」

「今度はエマのせいにする気ですか?」

「そうよ!イジメ返しなんてしようって持ち掛けたアンタが全部悪いのよ。あたしは悪くない!!」

イジメ返しなんてしなければこんなことにはならなかったのに……。

「エマは無理強いしていません。決めたのは咲綾先輩です。それに、イジメ返しが終わった後いい気になって忍をイジメたのは誰ですか?」

「あれは忍が悪いのよ!あたしを前にバカにしたから」

「イジメの加害者はみんなそう言うんです。被害者が悪いって決めつける。そして、自分のしてきた行為を正当化する。咲綾先輩、あなたの思考はもう加害者側です。それを自覚してください」

エマはそういうとあたしを残して歩き出す。

「偉そうなこと言わないで!!あたしを裏切るならこっちにだって考えがあるんだから!」

今までのイジメ返しのこと全部暴露することだってできるんだ。

ノエルはまだ見つかっていない。もしも警察にノエルのことを話せば、エマだって道連れだ。

エマはゆっくり振り返るとあたしを見つめた。

「どうぞご自由に。ただ、これから先そんなことができる精神状態でいられればの話ですが」

不敵な笑みを浮かべて去っていくエマを睨みつける。

絶対に許さない。あたしが地獄へ落ちるならアンタも一緒だ。

そのとき、前方からエナメルバッグを肩にかけた他校の生徒がこちらに歩み寄ってきた。

「えっ、砂羽(さわ)?うそ……すごい久しぶり……!」

中学時代、共にバスケで汗を流した砂羽に気付き声をかけると砂羽はなぜか露骨に顔を歪めた。

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