イジメ返し―連鎖する復讐―

先生の嘘

翌日、部活に向かう足どりは重たかった。

放課後になってもなかなか椅子から立ち上がれず、教室から出るのも時間がかかってしまった。

ゆっくりとした動作でなんとか部室に向かう。

中にはもう誰もいない。

制服からTシャツに着替えて部室を出て体育館に向かう。

バッシュに履き替えてからコートの真ん中に集まっているみんなの元へ行くと、あたしと同じタイミングで折原先生が体育館に入ってきた。

「集合!!」

散らばっていた部員も全員が駆け足で先生の元へ向かう。

先生を囲むように並んだあたし達。

チラチラと遠慮がちに折原先生に視線を向ける。

すると、先生と目が合った。

その瞬間、先生は笑った。口元をわずかに持ち上げた嫌な笑い方だった。

「実は、昨日部活のあとに桜南高校の練習試合のことで深山から直々に話があった」

「えっ……」

「話って?」

先生の言葉に部員たちがざわつく。

あたしはただ呆然としたまま先生を見つめた。

昨日の先生の言葉がふいに蘇る。

『変態教師呼ばわりされて俺が黙ってると思うなよ』

去り際に放った言葉。

何か良からぬことが起こる気がして寒くもないのに腕に鳥肌が立つ。

そして、ドクンドクンっと心臓が不快な音を立てて鳴り始めた。

「深山は瑠偉が選ばれたことが不満なんだよな?実力は自分の方があるから自分が試合に出たいと直談判してきてな。その熱い気持ちは受け取ったが、俺は瑠偉の方が実力が上だと思ってる。俺の判断が間違っているのか、みんなにも聞きたい」

「……ハァ!?アンタ、そんなこと言ったの!?」

真っ先に声を荒げたのはノエルだった。

「違う!!あたしはそんなこと言ってない!!!」

「なにそれ。だったら先生が嘘ついてるってこと!?先生が嘘つくメリットないじゃん!!」

「それは……」

昨日のことを全部ぶちまけてやりたい。

目の前でニヤニヤとした笑みを浮かべてこの状況を楽しんでいるこの男が変態教師であると。

部員であるあたしに関係を迫るようなセクハラ発言をしたと。

全部話したいけど、今はダメだ。

そんなことをしたら、大事になってしまう。

校長や教育委員会の耳にでも入ったら、部の存続すら危うくなってしまう。

そうなったら3年間必死に頑張ってきた意味がなくなる。

努力が水の泡だ。
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