イジメ返し―連鎖する復讐―

加速するイジメ

月曜日。体育館に入るとすでに全員が揃いストレッチを行っていた。

どうして今日にかぎってみんなこんなに早いの……？

不思議に思いながらバッシュに履き替えて体育館の中に入ってみてハッとする。

「……え」

瑠偉が２年生とペアになってストレッチを行っている。

２年生の忍は後輩の中で頭一つ抜けるぐらいの実力の持ち主だった。

３年生は６人。いつもなら二人ずつペアになってストレッチをするのに。

そこに忍がいるということは、あたしの居場所などないということ。

「……アンタ、遅い！！たるんでんじゃないの！？」

あたしに気付いたノエルが怒鳴りつける。

「ごめん……」

「やる気ない奴がいるとみんなの士気が下がるんだけど。罰として腹筋背筋腕立て伏せ１００回ね！！」

「そんな……」

あたしが困惑していると、ノエルが立ち上がってツカツカとあたしのほうへ歩み寄る。

「今日は体育館を使える時間が短いから早く来るようにって連絡したんだけど」

「そ、そんな連絡きてないよ！！」

「ううん、した。あたしちゃーんっと言ったもん」

「そんな！！聞いてない！！嘘つかないで！！」

思わず叫ぶと、ノエルがぎろっと睨み付けた。

「あたしが嘘ついたって言いたいわけ？みんなの前で嘘吐き呼ばわりする気？」

「それは……」

「あたしは言った。さっさとやれよ！！！アンタに構ってる時間がもったいない」

「――ノエル！！」

必死になってノエルの腕を掴むと、「触んな。うぜぇんだよ」とノエルはあたしだけにしか聞こえない声で呟いた。

思わずノエルの腕から手を離す。

「ごめんごめん、待たせて。みんなストレッチ再開して～！」

「はい！！」

何事もなかったかのように再びストレッチを始める後輩たち。

すると、瑠偉と一緒にストレッチを行っていた後輩の忍が振り返って言った。

「あーあ、咲綾先輩のせいで貴重な練習時間が減っちゃった」

わざと周りの子に聞こえるような声量で言う忍。

「だよね……」

「しかも、ノエル先輩を嘘吐き呼ばわりしたし……」

やめて。やめてよ。あたしはきいてなかったの。

ノエルからそんな連絡受けてない。

「咲綾先輩って、最悪じゃない？」

あちこちから聞こえるあたしへの悪口。

あたしが後輩たちからの信頼も失った瞬間だった。