幽霊でも君を愛する
コツ コツ コツ コツ

そんな静寂を打ち破ったのは、ゆったりとした足取りで公園の中へ入ってきた一人の青年。青年は時々鼻歌を交えながら、この異様な静寂を満喫している様子。
足音が公園の中に響き、小さな石を蹴り飛ばした微かな音まで響いている。スニーカーで砂利を踏みしめながら、青年はただフラフラと公園を歩いていた。
青年は何処に向かうでもなく、ひたすら公園を歩いている。他人から見れば、完全に不審者だと思われてしまう。
でも彼には、彼なりの『目的』がある。
ただ、その『目的』を達成させる為には、とにかく待つしかないのだ。元々静寂を好んでいた青年は、この時間帯に感じられる空気を味わう為、あえてフラフラと公園を練り歩いていた。
風で揺れるブランコを、青年が足で少し蹴ってみる。怒るブランコが『ギギギィー』と怒号を浴びせ、青年は逃げるようにその場を立ち去る。
水飲み場から響く水滴の音と青年お足音が絶妙なハーモニーを奏で、静寂だった公園が一気に賑やかになった。
青年はそのまま、噴水の淵に腰掛け、夜空を見上げた。今日はどんよりとした分厚い雲に覆われ、月や星の光が一切見えない。
この光景を見ても、地面なのか空なのかが分からない程、四方八方が黒に覆われた世界。しかし青年は、相変わらず澄んだ表情をしている。
そう、逆にこの暗闇を心地良く感じている表情にも見える。普通の人なら、足がすくむ程の恐怖に襲われてもおかしくない筈。
彼は決して、ポケットの中にあるスマホを手に取ろうともせず、暗闇なれた両目であちこちを見回しながら、思いっきり深呼吸している心の余裕ぶり。
しかし、彼は決して強がっているわけではない。純粋にこの環境を好んでいるだけだ。青年にとっては、騒がしくて雑音ばかりの場所が、逆に心地悪くて長居できないのだ。
そんな青年を、静寂は優しく包み込む。まるで暗闇の中に温もりを交えた母体の中の様に、微かな温もりが混じる空気。
暗闇に愛された青年は、その場でボーッと、意識を徐々に手放していた。昼間の雑音とノイズを受信した脳を休める様に。    



「ねぇ、お兄さん。」

突然、青年に話しかける声が聞こえる。その声に反応した青年は、何故か表情が一瞬明るくなった様に見えたが、すぐにまたさっきの平然とした表情に戻った。
青年に声をかけた人物には



足が無かった
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