幽霊でも君を愛する
「お断りだね。」

「・・・は？」

一瞬だけ、少女の声色が変化した。まるで獣の鳴き声と女性の声を合わせた様な、不気味な声。
だが、その表情はキョトンとしたまま、その場から動かない。

「私にはね、この現世で愛したい存在がいる。だからこそ、今死ぬわけにはいかないよ。私が死
　ぬのを、きっと『彼女』も許してはくれないからね。

　彼女が『幽霊』であったとしても、この世で愛していたい。」

そう語る彼の後ろには、少女と『同じ存在』がいた。彼の首に両腕を巻きつけ、彼を後ろから抱きかかえている様に浮いている女性。
明らかにその女性の顔は、『執念』に満ちていた。瞳の色は紅く染まり、光を放っている。その迫力に、同じ『幽霊』である少女は圧倒されていた。
そう、その執念深さは、少女のソレ凌駕している。少女は先程の威勢を失い、まるで肉食動物に怯える草食動物の様になってしまった。
そして殺気立っている後ろの彼女を優しく宥めているのは、彼女が何年・何十年と守り続けていた存在。彼は彼女の頬を優しく撫でながら、自分の頬を心地良さそうに擦り合わせている。
まるで犬や猫の愛情表現にも見える。だが、彼女にはこの手段が一番効果的なのを、彼自身も既に把握していた。

「・・・これ以上、彼女を怒らせない方がいい。彼女は君よりも格上。泥試合になるのは私も見
　苦しいからね。

　まぁ、とりあえず座ってよ。」

そう言いながら、青年は右手で噴水の淵を軽く叩いた。もう彼を守る幽霊は殺気立っていなかったが、また疑念は晴れていない様子。
少女はしばらくキョトンとした表情から抜け出せなかったが、何かを諦めたのか、ため息をつきながら彼の横に座った。

・・・いや、もう『観念した』という表情だ。

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