幽霊でも君を愛する
「じゃあ、牡丹さんも〈灯籠〉なの?」

「当たり前だよ。そうじゃなかったら、貴女にマグカップを渡したり、この家の掃除なんてでき
 ないでしょ。」

バケツの片付けが終わった牡丹が、私達の話に滑り込みで入ってきた。雑巾はどうやら処分するらしい。
とりあえず、匂いが部屋に充満しないように、押し入れに押し込まれていたビニールシートをシミが付着している場所に敷いて、そこからまた本を置いてシートが動くのを防いだ。

「・・・それもそうですね。
 でも私、貴方達と出会うまで、ずっと現実世界に干渉できなかった。何でいきなり・・・」

「これは私の持論でしかないけど、恐らく〈灯籠〉である牡丹と関わった事で、君自身の体質が
 変わったんじゃないかな。よくある事だよ。
 〈灯籠〉とは違い、現実世界に一切干渉できない霊の事は〈提灯〉と呼んでいるんだ。君は恐
 らく、〈灯籠〉と〈提灯〉の間に居たんだ。
 だから火の気のない場所に火を灯す事ができた。でも牡丹のように、物を掴んだり、飲食はで
 きなかった。
 君自身の力・・・もとい、君自身に宿っていた『怨念』によって、ユキちゃんは自分でも知ら
 ぬうちに、どんどん変化していた。」

「『怨念』って・・・」

私がバスや電車等、大勢の人が一つの空間に押し込められている状況を嫌うのは、その『怨念』が影響している。
だが、怨念にも色々と種類がある。特に、この世で最も多く潜伏している多くの怨念は、大半が『無鉄砲』である。
特定の人物や物体に『恨み』や『妬み』を抱き、怨念を宿らせれば、その効果は憎い相手にしか通用しない。
だが、無鉄砲な『怨念』は、本当に厄介なのだ。何の関係もない第三者にも影響を与え、その凄まじい影響力は、霊にも影響が出る。
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