【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 黒いサテンの長手袋をはめる間にも、ちゃくちゃくと化粧が進められていく。
 真っ青なアイシャドウを塗られそうになったマリアは、「待って」と止めた。

「お化粧は控えめにお願いできるかしら。口紅は赤より肌馴染みのいいローズを。アイシャドウはベージュやブラウンを使って、目の形を引き立てる程度にしてほしいの。わたくしの手持ちでは派手すぎるから、こちらの化粧品を使って」
「は、はい」

 侍女は、不安げに地味な色ばかりのパレットを持ち上げた。
 これは、化粧を改善するために、ミゼルから借りたものだ。

 これまでのマリアは、派手な顔立ちを生かす、強い色合いを多用していた。
 人前に出る際には、真っ赤な唇と真っ青な目蓋、目尻より長く高くはねあげた黒いアイラインが定番だったが、ミゼルはこう思っていたという。

『もっと柔らかな色を使ったら、マリアヴェーラ様の優しさが感じられる顔立ちになると思うんです。それで肖像画に可愛げを付加してはいかがでしょう?』

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