【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
(この化粧で描かれた肖像画なら、わたくしも好きになれそう)

 最後に、スズランのブローチを胸元に挿して、マリアは立ち上がった。
 お直し用の化粧品を持たせた侍女をともなって廊下を進み、肖像画の舞台となる舞踏場へと入る。

 大きな窓がいくつもあるので、シャンデリアを点さなくても室内が明るい。
 天井には見事なフレスコ画があり、大鏡と名君たちの肖像画が壁を飾っている。

 普段と違うのは、別珍のカーテンがかけられた窓辺に、一人の男性が立っていることだ。
 ゆるくうねる黒髪を一つに結び、刺繍がふんだんに入った宮廷服を身につけて、ズボンのポケットに手を入れている。

「貴方が、クレロ・レンドルム様……?」

 振り向いたクレロは、マリアですらも息を呑む美丈夫だった。
 ハンサムな顔立ちは彫りが深く、服の上からでも分かる立派な体格からは、大人の色気が漂う。

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