【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 言葉を切ったクレロは、マリアの耳元にそっと吹き込んだ。

「こうなったのは聖女のせいでしょう。実は、ネリネ様についてお耳に入れたいことがございます」
「!」

 クレロは、ネリネの肖像画を描いた経験がある。
 ジステッド公爵家に滞在して、長椅子に座らせたマリアに向き合っていたように、ネリネとも長い間、一緒にいたはずだ。
 我がまま放題の聖女に一泡吹かせられるような情報を握っているかもしれない。

「ぜひ、お聞かせください」

 マリアが告げたとき、次の幕を報せる鐘が鳴った。
 だが、劇場に戻る気は二人ともなかった。

 急ぎ足でホールに戻っていく流れに逆らって休憩室に向かう。
 そこは、ボックス席の利用者だけが使えるサロンになっていて、人はまばらだ。

「こちらでしたら、誰にも聞かれないと思いますわ」

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