【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 タスティリヤ王国は治安のいい国ではあるが、さすがにこういった場ではスリや喧嘩があるはずだ。
 どんな犯罪に巻き込まれるかも分からないし、王族や貴族が顔を出すには不適当である。

「レイノルド様は、ずいぶんと刺激的な場所に出入りしておられるのですね」
「あんたに会えない間の暇つぶしだ。それに、これから行く場所はまだ入ったことがない――ここだ」

 レイノルドは、紫色のモールがついた看板の前で立ち止まった。
 一見すると普通の二階建ての家だが、ドアの前には屈強な見張り番が二人いる。
 内心でビクリとするマリアを背にかばって、レイノルドは彼らに向き合った。

「ヘンリーに紹介されてきた。マダム・オールに会いたい」
「入れ」

 ドアが開かれる。レイノルドに続いて中に入ろうとしたマリアは、見張り番から白いハンカチを握らされた。
 広げると、それは宣伝用の頒布品だった。

 ――ここはマダム・オールの店。女性客にだけ、特別な薔薇のお酒のご用意があります――

 酒瓶の並んだカウンターがある店内は、大勢の人々がアルコールの入ったグラス片手に歌ったり踊ったりしている。
 一見すると普通の酒場のようだが――マリアは、ふと気づいた。

 ステージ上で、派手な羽根扇を手にしたスリップドレス姿の歌姫が、やけに筋肉隆々としたゴツい体つきをしている。

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