【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 叫びかけたマリアの口を、レイノルドはすかさず手で塞いだ。

「もごっ、もご!?」
「あんたがマダムか。ヘンリーの紹介で部屋を借りに来た」
「お待ちしておりましたわ。ここはどんな趣味も恋路も応援する店ですの。マダムであるアタシの目が黒いうちは手を出させませんわよ」

 マダム・オールは、分厚い付けまつげをバサリと下ろしてウインクした。

(この方がマダムだったの!? わたくし、てっきり怪物かと……)
 
 レイノルドの拘束が緩んだ。
 深呼吸してようやく落ち着いたマリアは、スカートをつまんだお辞儀をする。

「お世話になります」
「お行儀が良い子ね。でも令嬢らしいお辞儀は止めなさいね。目立つわよ」

 マダムは、タイトなドレスに押し込んだむちむちの体を揺らしながら、店の奥にある階段に案内してくれる。

「二階に上がって。吹き抜けの廊下を歩いて、階段の向かいにある部屋が貴方の専用だから。シーツやタオルは替えてあるけれど、他に必要な物があったら遠慮なく言うのよ」

 階段を上ったマリアは、吹き抜けの廊下から階下を見下ろした。
 酒焼けした歌声が響くホールでは、めいめいに着飾った格好で人々が踊っている。
 楽しげな雰囲気を眺めていくと、カウンターに腰かけた若者の手元に目が留まった。

 爪の辺りが、ミラーボールみたいにキラキラ輝いている。
 一人きりでウイスキーを飲んでいる若者は、周りが派手なので相対的に目立っていないが……。

(クレロ・レンドルムだわ)

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