【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 たしか、彼のアトリエはここからそう離れていない住宅地にあったはずだ。
 足どりが遅くなったマリアを気にして、部屋に荷物を置いたレイノルドが戻ってきた。

「どうした?」
「いえ……顔見知りがいたものですから」

 説明している間に、一人の女性がクレロに近づいていった。
 目立たないための配慮か、喪服のような黒いドレスを着ている。しかし、短い髪を払いのけた拍子に帽子が落ちて、顔が露わになった。

「あ……!」

 女性は、聖女ネリネだった。

「あいつ、なんでこんなところにいるんだ?」
「近くで様子を窺いましょう」

 二人は階段を下りて店内へ戻った。
 マリアは、薄布をかき合わせて万が一にも姿を見られないように。
 そしてレイノルドは、壁にかけられていた飾り帽子を頭にのせて、カウンターに近づく。

「――もういいわ! この役立たず!!」

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