【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 突然、ネリネがクレロのグラスを取り上げ、ウイスキーを彼の顔にかけた。

(一体なぜ!?)

 辺りは騒然とした。
 しかし、ネリネが外に走り出て、酒にまみれたクレロも退出すると、それまでの陽気な空気を取り戻す。

「ふいーっ、ひっく。ああいう客がいると店も大変だねえ、ひっく」

 クレロの隣の席にいた、頬に大きなシミのある紳士が、独特なしゃっくりをしながら女性のバーテンに話しかける。
 紳士服を着ているが、多分女性だ。それに、酔っ払うと饒舌になるタイプのようだ。

 マリアは、紳士に問いかけた。

「先ほどのカップル、どんなお話をしていたのか聞いていらっしゃいましたか?」

 話の対価としてカウンターに金貨を出すと、男性はたるんだ目蓋がかかった目をすがめた。

「ひっく、金貨なんかいらないねえ。これでも資産家なんだよお嬢ちゃん、ひっく。そうだな、あんたが飲み比べで勝ったら教えてやってもいい」
「飲み比べですわね。受けて立ちますわ」
「そんなことできるのか、あんた――」

 止めようとするレイノルドを遮って、マリアはバーテンに金貨を掲げて見せた。

「飲み比べのお酒をください。薔薇の香りのものがあれば、それを」
「おい、勝負だぜ! 賭けるならこっちにしな、ひっく!」

 紳士の声が店内に響く。
 歌姫のステージが中断し、店の真ん中にテーブルが移動され、そこでマリアと紳士は向き合って飲み比べをすることになった。

 集まったギャラリーがはやし立てる中、マリアはショットグラスを持ち上げる。
 紳士もマリアに向けてグラスを掲げた。

「「乾杯」」

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