【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 苛立った様子で広いテラスから庭に下りてきたのは、聖女ネリネだった。
 白いドレスを身にまとった彼女は、人をかき分けてズンズン肖像画の真下へ進んできて、マリアの肖像画をぽかんと見上げる。

「肖像画のお披露目会……? あの目立ちたがり屋がやりそうなことだわ!」

 ネリネは、観衆に向かって両手を広げた。

「みんな、よく見て! これこそ、ジステッド公爵令嬢が肖像画家クレロ・レンドルムと浮気していたって証拠よ! 恋仲でもなければ、こんなに美しく描いてもらえるわけないもの!!」

「こうは考えられませんこと? あらぬ誤解を受けてしまうほど、絵のモデルが良いと」

 澄んだ声に、人々が振り返る。
 噴水を挟んだ向こうにある壇の真下に立っていたのは、肖像画と同じ深紅のドレスを身にまとい、髪には薔薇飾りを挿した、絵画の中から飛び出してきたかのごとき美女―――。

「マリアヴェーラ・ジステッド……!」

 絵よりはるかに高貴な実物に、ネリネはギリッと奥歯を噛んだ。

 マリアだけなら近づいて噴水に落としてやるが、今は多数の人目がある。
 壇には国王と王妃がいて、マリアの両側にレイノルドとアルフレッドまで控えていた。

(わざと国王陛下たちを呼んで、あたしに手を出させないようにしたわね、卑怯者め!)

< 268 / 446 >

この作品をシェア

pagetop